今年、すでにご存じの方もいるかもしれませんが、私はTEDxの舞台に立つ機会をいただきました。
しかも、一度ではなく二度。
それ以来、この経験についていろいろな質問をいただきます。
なぜTEDxに挑戦しようと思ったのか。
どうやってその機会を得たのか。
なぜこのテーマを選んだのか。
実際にやってみてどうだったのか。
そして何より、そこから何を学んだのか。
そこで今回は、2つのTEDxの舞台に立つまでの裏側を少しお話ししながら、そこから私が学んだ3つのことをシェアしたいと思います。
実はこの3つ、TEDxだけの話ではありません。
英語学習にも、そして人生で何かに挑戦するときにも、そのまま当てはまることだと思っています。
なぜTEDxだったのか?
物心ついた頃から、私はずっと言語を学ぶことが大好きでした。
昔は、なぜそこまで言語に惹かれるのか、自分でもよく分かっていなかったと思います。
でも今振り返ってみると、私にとって言語は、昔からたくさんの可能性を意味していたのだと思います。
自由。
世界のどこかで暮らせる可能性。
冒険。
それまで知らなかった世界を、自分で体験できること。
つながり。
人との出会いを通して、世界をもっと深く経験できること。
そして、言語を学ぶことで理解が深まっていく文化、歴史、神話、心理などもあります。
どれも、私が昔から強く興味を持ってきたものです。
そんな私が2006年に日本に来て、英語を教え始めました。
そこで、言語に対する自分の情熱が、初めて明確な「目的」と結びついたように感じました。
日本では、本当にたくさんの方が英語を一生懸命勉強しています。
海外で暮らしたい。
旅行をもっと自由に楽しみたい。
国際的な環境で仕事をしたい。
目標は人それぞれですが、その先にはいつも、英語を使って実現したい何かがあります。
だから私は、日本の英語学習者がより効果的にコミュニケーションできるようサポートし、その先にある人生の目標を実現する手助けをしたいと思うようになりました。
それ以来、ずっとそれを仕事にしてきました。
英会話スクールや個人向けのコーチングプログラム、そしてこの10年間は、自分で立ち上げたBylinguaを通して英語を教えてきました。
個人の学習者からチーム、企業、経営者、政府機関まで、セミナー、教室、会議室、オフィス、そしてオンラインと、さまざまな場所で英語コミュニケーションの指導やコーチングをしてきました。
ところが、どれだけ経験を重ねても、同じ問題が何度も見えてきました。
その正体をきちんと言葉にできるようになるまでには、何年もの指導経験が必要でした。
ただ、自分自身が外国語を学ぶ中でも、ずっとどこかで感じていたことでもあります。
それは、
語学学習は「言葉の仕組み」を学ぶだけではない
ということです。
文法は大切です。
単語も大切です。
でも、「知っている」ことだけでは、本当の意味での上達にはつながりません。
この話については、また別の記事でじっくり書きたいと思います。
ただ、長年教える中で見えてきた、学習者がかけている努力と、実際に得られる結果との間にあるギャップ。
そこを少しでも埋めるためのメッセージを、もっと多くの人に届けたいと思うようになりました。
そして、そのために私が思い浮かべた場所がTEDxでした。
さらに、本当に届けたい人たちとつながるためには、日本語で伝えることが一番だと思いました。
そこで、もう何年も前のことですが、
「いつか日本語でTEDxのスピーチをする」
という目標を立てました。
「いつか」を、本当の目標にする
最初は、本当に漠然とした「いつか」の目標でした。
自分のビジネスを始めてからは、それが少しずつ、自分の仕事やミッションの延長線上にある現実的な目標へと変わっていきました。
そして2020年。
本気で動くことにしました。
日本語でステージに立ち、大切なメッセージを人の心に届く形で伝えたい。
そう考えたとき、ただ「TEDxに出たい」と思っているだけでは足りません。
まずは、日本語で人前に立って話す力そのものを高める必要があると思いました。
そこでToastmastersに入り、スピーチのトレーニングを始めました。
素晴らしいクラブメンバーに支えてもらいながら、数年間かけて、日本語でのパブリックスピーキング力を少しずつ磨いていきました。
そしてようやく、
「準備はできた」
……とまでは言えなくても、
「そろそろ挑戦してもいい」
と思えるところまで来ました。
そのとき、チャンスがやってきました。
TEDxへの準備を始めたばかりの2022年、偶然あるTEDxコーチと出会い、とても役立つアドバイスをいただいていました。
そして2025年8月。
ちょうど自分自身でも「そろそろ挑戦できるかもしれない」と感じ始めていた頃、その方から突然連絡をいただきました。
「TEDxは、今でもやりたいですか?」
答えはもちろん、YESでした。
そこから一気に動き始めました。
TEDxはイベントごとにテーマやミッションが違います。
そのため、とにかくたくさん応募すればいいというものではありません。
コーチと相談しながら、自分のアイデアと相性の良いイベントを探し、2つの候補を見つけました。
もちろん、どちらかに選ばれる保証はありません。
そこで、両方に応募することにしました。
すると幸運なことに、2つともスピーカーとして選んでいただくことができました。
「いつかTEDxで話したい」という一つの目標が、突然、2つのTEDxトークになったのです。
一つは日本語。もう一つは英語。
せっかく2回の機会をいただいたので、一つを日本語、もう一つを英語で話すことは、私にとって自然な選択でした。
ただ、もう一つ決めなければならないことがありました。
同じスピーチを2回するのか、それとも違う内容にするのか?
これは応募の段階で決める必要がありました。
TEDxでは「誰が話すか」だけではなく、どんなアイデアを、なぜその人が伝えるのかも含めてスピーカーが選ばれるからです。
考えた末、私はこれを、自分の考えをもう一段深く掘り下げるチャンスとして捉えることにしました。
根本にある問いは同じです。
なぜ、これだけ頑張っているのに、英語がなかなか上達しないのか?
ただ、それを2つの違う角度から考えてみることにしました。
TEDx InnovationUで行った日本語のトークでは、比較的学習の初期段階にいる方にも伝わるよう、語学学習とスポーツの共通点について話しました。
語学は、一般的な「学校の教科」とは少し違います。
何かを「知っている」ことと、それを実際に「できる」ことは同じではありません。
スポーツと同じように、実際に使いながら身につけていく動的な部分があるからです。
一方、TEDx Awajiでの英語のトークでは、中級・上級になるほど大切になってくる「翻訳への依存」をテーマにしました。
新しい単語や文法を、いつも自分の母語への翻訳だけを通して理解していると、その言語に含まれる歴史や文化、ニュアンスが見えにくくなってしまうことがあります。
そして実は、そうした部分こそが、別の言語、そしてその言語を話す人たちと、より深くつながるために大切なのではないか。
そんな話をしました。
TEDx InnovationU、TEDx Awajiのオーガナイザーの皆さんは、私のテーマやアイデアを最初から最後まで本当に温かくサポートしてくださいました。
自分が長年考え続けてきたことを、TEDxという世界的に知られた舞台からより多くの方に届ける機会をいただけたことに、今でも心から感謝しています。
ただ、この2つのアイデアは、TEDxに応募するために突然思いついたものではありません。
これまで12,000時間以上、何百人もの学習者と向き合い、セミナー、教室、会議室、オフィス、オンラインなど、さまざまな環境で英語を教えてきた中で見えてきたパターンです。
レベルや目的が違っても、幅広い英語学習者に当てはまるものだと考えています。
そして何より、こうした「見えない壁」に気づくことは、
「こんなに勉強しているのに、なぜ上達しないんだろう?」
というフラストレーションから抜け出すヒントになります。
英語学習そのものを諦めてしまうだけでなく、その先にあったはずの海外生活や旅行、国際的な仕事などの目標まで諦めてしまう。
そんなことを少しでも減らしたい。
それが、この2つのトークで伝えたかったことです。
では逆に、私自身はTEDxから何を学んだのでしょうか?
振り返ってみると、特に3つのことが心に残っています。
そして、この3つはTEDxだけではなく、英語学習にも、そして人生で何か大切なことに挑戦するときにも、そのまま当てはまると思います。
1. まずゴールを知る。そしてチャンスをつかめる自分を準備しておく
2025年8月にTEDxコーチから連絡が来ることを、私は予想していませんでした。
でも、その何年も前から、自分がどこへ向かいたいのかは分かっていました。
最初はただの夢だったTEDxを、少しずつ具体的な目標に変えました。
そして、目標が明確になったからこそ、そのための準備ができました。
Toastmastersに入りました。
スピーチ力を磨きました。
日本語で人前に立つ経験を重ねました。
TEDxをよく知る人にもアドバイスを求めました。
もちろん、どれをやったからといって、TEDxのチャンスが保証されるわけではありません。
でも、実際にチャンスが来たときには、それをつかめるところまで自分を準備できていました。
英語も同じです。
いつか海外に住みたい。
もっと自由に旅行したい。
海外留学をしたい。
国際的な仕事に挑戦したい。
世界中に友達を作りたい。
あるいは、今の自分にはまだできない経験に「YES」と言えるようになりたい。
そのチャンスが、いつ来るかは分かりません。
でも、自分が何を目指しているのかは、今決めることができます。
そして、そのための準備も今日からできます。
英語を使って何を実現したいのかを知ること。
そして、そのチャンスが来たときに「YES」と言える自分を準備しておくこと。
それが最初の一歩です。
2. チャンスが来ても、不安はなくならない。それでも一歩踏み出す
何年も準備してきたのだから、TEDxのチャンスが来たときには「よし、準備万端!」と思えたはず。
……と思うかもしれません。
実際は、そんなことはありませんでした。
もちろん、嬉しかったです。
でも同時に、
「本当にやるんだ」
という現実が一気にやってきました。
ステージがある。
観客がいる。
カメラがある。
そして、その映像はインターネットに残ります。
しかも一つは、母語ではない日本語でのスピーチです。
どれだけ準備しても、不安が完全になくなるわけではありません。
これは、英語学習にもまったく同じことが言えると思います。
「もう少し英語が上手になってから」
「もっと自信がついてから話そう」
「海外の仕事に応募するのは次の機会にしよう」
「もっと準備ができてから旅行しよう」
そう思っていると、いつまでたっても「まだ足りないもの」が見つかります。
もう一つ文法を覚えたい。
あと1,000語くらい単語を増やしたい。
もっと発音を良くしたい。
もっと自信をつけたい。
でも、どこかのタイミングで、
「完璧ではないけれど、今の自分でやってみよう」
と決めなければならない瞬間が来ます。
準備をすることで、チャンスをつかむための力は身につきます。
でも、必ずしも「もう怖くない」「完全に準備ができた」という感覚が手に入るわけではありません。
それでも、ときには一歩踏み出す。
それが次のステージに進むために必要なことだと思います。
3. 完璧さではなく、「誰に、何を伝えたいのか」に集中する
あれだけ準備をしても、2つのTEDxトークがすべて完璧に進んだわけではありません。
一つ目のトークでは、マイクのフィードバックが結構ありました。
二つ目のトークの直前には声が出なくなり、本番でも事前に提出していた字幕とタイミングを合わせながら話す中で、何度か小さなミスがありました。
でも皮肉なことに、その字幕のおかげで現在地を確認し、すぐに話に戻ることもできました。
どれだけ準備しても、完璧にはなりません。
そもそも、「完璧」なんて幻想なのかもしれません。
大切だったのは、完璧なスピーチをすることではありませんでした。
伝えたかったメッセージを、目の前の人たちに届けること。
それが目的でした。
これは、英語を話すときにもぜひ覚えておいてほしいことです。
英語で話していると、どうしても自分自身に意識が向きがちです。
「今の文法、合っていたかな?」
「ちゃんと発音できたかな?」
「この単語でよかったかな?」
「失礼な言い方じゃなかったかな?」
でも、コミュニケーションの目的は、自分の英語を採点することではありません。
目の前にいる相手とつながり、伝えたいことを伝えることです。
単語が出てこないこともあります。
文法を間違えることもあります。
相手の言ったことを聞き間違えることもあれば、自分の言ったことが一度で伝わらないこともあります。
そして、どれだけ準備しても、想定外のことは起こります。
でも、それだけでコミュニケーションが失敗したことにはなりません。
「私の英語は完璧だった?」
ではなく、
「伝えたかったことは、相手に伝わった?」
と考えてみてください。
英語を使う上では、その方がずっと大切な成功の基準だと思います。
あなたは、何のために英語を学んでいますか?
振り返ってみると、何年も前に「いつかTEDxで話したい」という漠然とした目標を持ったことを、とても良かったと思っています。
そして、いつかその目標を本気で受け止め、準備を始めたこと。
実際にチャンスが来たとき、どうなるか分からなくても「YES」と言ったこと。
そのすべてが、今回の経験につながりました。
そして、英語学習も本来は同じなのだと思います。
英語そのものが、ゴールではありません。
海外旅行かもしれません。
海外で暮らすことかもしれません。
国際的なキャリアかもしれません。
新しい友達との出会いかもしれません。
誰かとの大切な会話かもしれません。
あるいは、英語がなければ経験できなかった、新しい世界との出会いかもしれません。
英語は、そこへたどり着くための一つの力です。
だからまず、自分は何のために英語を学んでいるのかを考えてみてください。
そのチャンスが来たときにつかめるように、今から準備をする。
そして本当にチャンスが目の前に現れたときには、
「もっと英語が上手になってから」
「もっと自信がついてから」
と、完璧になるまで待たないでください。
完璧でなくてもいい。
不安が残っていてもいい。
「今の自分なら、やってみてもいい」
そう思えるところまで来たのなら、ぜひ一歩踏み出してみてください。